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逃がさない 14

Author: 花室 芽苳
last update Huling Na-update: 2025-07-12 06:46:32

「紗綾《さや》、付いてるぞ」

「え?」

 御堂《みどう》が私に自分の口元を指さして見せる。御堂の言っているのがオムライスのソースだと分かって、私は慌ててティッシュで口元を拭おうとしたのだが。

「……違う、そっちじゃない。こっちだ」

 そう言うと同時に御堂が私の右頬についているソースを自分の親指で拭ってしまった。そのまま彼はその指を舐めて――私を見つめてニヤリと笑う。

「……そうやってあなたはすぐに私が恥ずかしがるようなことをする」

 悔しくて睨みつけて文句を言っても、御堂は痛くも痒くもないようで。いつもこうやって、私一人が空回りする。

「いちいち紗綾の反応が可愛いからな。どれだけ見ていても飽きそうにない」

 御堂は楽しそうに笑うだけで、反省なんてかけらもしていない。彼は、きっとまた私で遊ぶつもりなのだろう。

「これ以上御堂に見られたら減るかも……」

「それは困るな、紗綾は今のままでいろ。ほら、ちゃんとスープも全部食べるんだ」

 ぽんぽんと頭を撫でられて、食事を再開する。

 「それは困る」なんて言ったくせに、御堂はやっぱりずっと私を見てるじゃない。でもいつもよりずっと優しい彼の視線は、そんなに嫌じゃなかった。

 ……この日は遅くなったからと、御堂が私の部屋の前まで送ってくれた。戸締りをきちんとしろと、それはもうしつこく言われたけれど。

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